2019.04.03
一般

透析見合わせについて

今回、話題になっている公立福生病院の透析中止の話について書いてみたいと思います。
今回の44才女性の透析中止について、現在日本透析医学会が調査を行っております。
報道ではいろいろな話が出てきますが、実際に医師と家族のやりとり、そしてどの様な手順が行われたのか、患者さんの状態がどのような状態だったのか判りませんのでその事について意見を言う事は出来ません。
その上での話で、透析中止→透析学会では“透析見合わせ”としていますが、きちんと整理して見た方が良いと感じました。
まず、大前提として、透析を見合わせると死に至ると言う事があります。
そして、これから透析になる方と現在透析を行っている方では透析を見合わせた場合の予後はかなり違ってくると言う事もあります。
長く透析を行っており、無尿の状態の方では透析を見合わせると1−2週間くらいで死に至るのに対し、透析導入以前の方では亡くなるまでの期間はかなり長いと言う事です。
海外の論文では、75才以上の方の場合には透析導入した方と非導入の方であまり予後は変わらなかったと言う論文もあります。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3084441/pdf/gfq630.pdf
ただし、これは透析の成績が日本とは異なる海外での論文ですので、高齢者に手厚い医療が提供されている日本ではどうなのかは判らないです。
話は戻りますが、この透析導入以前の方で透析の見合わせを検討するケースは時々見られます。
この為、学会では、日本透析医学会血液透析療法ガイドライン作成ワーキンググループ  透析非導入と継続中止を検討するサブグループを作成して『 維持血液透析の開始と継続に関する意思決定プロセスについての提言』を2014年に発表しています。
その2年前の2012年には、日本透析医学会総会にて
慢性血液透析療法の導入と終末期患者に対する見合わせに関する提言(案)』
「慢性血液透析療法の非導入/継続中止(見合わせ)」に関する血液透析療法 ガイドラインワーキンググループからの提言(案)2012 を策定することに至った経緯について
を、委員会報告として報告されています。
その中で
どのような判断基準で透析非導入という決定をされましたかと言う問いに対しアンケート調査結果が報告されています。

内容としては、本人の強い希望、認知症、身体状態などが書いて有ります。

我々透析従事者としては、患者さんに透析医療を提供したいのだが、多くのケースがやむ得ない理由で断念しているのが現状であると言う事が判るかと思います。
2016年の調査では、透析導入患者の平均年齢は69.4才まで上昇し、女性導入患者の47.2%が75才以上であり、90才以上で透析導入となる方が全国で875人となっていると言う現実があります。
今後は更に高齢化が進みます。そうすると、必然的に透析導入を行わない見合わせの患者数は増加していくと思われます。
この様な差し迫る現実に対し、日本透析医学会が提言をまとめています。
ただし、これはガイドラインではありません。
毎日新聞の報道でガイドラインから逸脱という言葉が頻回に使われていましたが、2012年の委員会報告で、日本透析医学会としての慢性血液透析療法実施に際しての立場を表明するもので、ガイドラインで無い事を明示すると記載しています。
通常、ガイドラインは多数のエビデンスに基づいて文章かされます。
死生観は個々で全く違ってきますし、その方の置かれた状況も異なります。
とてもガイドラインという一括りのものに置き換えることは出来ませんし、ガイドラインを作成するは我々の奢りとなります。
以上が、透析見合わせの中の非導入に関してのまとめです。
次に、それまで透析を行ってきた方の透析見合わせ、所謂透析中止について書きたいと思います。
2012年の委員会報告での記載に透析継続中止となった背景ならびに理由が書いて有ります。
ほとんどが透析実施不可能だったり、認知症の悪化などの医学的理由で透析継続を断念するケースです。
この場合、透析を行うこと自体が患者の予後を縮める可能性がありますので、やむ得ない理由です。私も病院勤務時代はたくさんの透析患者さんの看取りをしてきました。最終的に状態が悪化して透析が出来なくなりお亡くなりになる事がほとんどです。
これは議論の余地が無い話です。
それで残ったのが、まだ透析を続ければ年単位で生きる事が出来るが、本人の強い希望で透析を止めてしまうと言うケースです。
ここにはまだ十分長く生きられる可能性のある方の非導入例も含まれます。
ここに『 維持血液透析の開始と継続に関する意思決定プロセスについての提言』に書いて有る内容で関係する部分を取り上げてみたいと思います。
・維持血液透析では、倫理委員会の開設は現実的には不可能であり、医療チーム内での合意があることを原則とする
・患者が自己決定を行う際には医療チームは適切な情報提供を行い、患者から十分な情報を収集して患者が意思決定する過程を共有し尊重する
・透析の見合わせを検討する場合は、患者ならびに家族の意思決定プロセスが適切に実施されていることが必要であり、見合わせた維持血液透析は状況に応じて再開される
などの記載があります。
今回の新聞報道で倫理委員会を開かなかったと言う事が問題となっていますが、提言には倫理委員会を開く様にと言う記載はありません。ただ、今回の件にこれがあてはまるかどうかは判りませんのでご容赦ください。
適切な情報提供を行い、患者及び家族から十分な情報収集を行い話し合い個人の意思決定を尊重する。そして本人が希望した場合には速やかに透析を実施する
これらのルールがきちんと守られている事が大切になります。
再度書きますが、年単位で生きられる方が透析を受けない決断をするという事は希なケースであり、ガイドラインに出来るようなものではありません。
様々なケースがありますので、その都度対応していくしかありません。
ここからは私見となります。
提言にも書かれていますが、患者に判断能力があるのか?と言う事は重要なポイントです。
ハッキリとした意思を提示出来る場合でも、一度は精神科医の診察を受けて、鬱などの状況が無いかを確認する事が望ましいと思います。後悔しないためにもその事をお勧めいたします。
どこで看取るかという話になります。
自宅で死にたいと言う方は多いかと思います。
今回のケースも含め、見合わせには法的リスクが伴う可能性があります。
ですので、透析治療を知らない在宅の先生に看取りをお願いするのは申し分けない思いがあります。なかなか方向性を見いだすのは難しいです。
以上、私的意見も含め書いてみました。
今後この様なケースも増えてきますが、まだまだ対応が難しい問題であるとしか言えないと思います。
我々透析医に出来ることは、より良い透析を提供していく事です。
ただ、それでも限界が有る事は事実ですが、最善の方法が取れるように頑張っていきたいと思います。
参考資料
維持血液透析の開始と継続に関する意思決定プロセスについての提言 透析会誌 47( 5 ):269~285,2014
第57回日本透析医学会 学会委員会企画 コンセンサスカンファレンスより 『慢性血液透析療法の導入と終末期患者に対する見合わせに関する提言(案)』 透析会誌 45ó12õ:1085〜1106,2012
2019.04.02
一般

しらかわ透析・内科クリニックを訪問してきました。

もう3年も前になりますが、福島県立医科大学泌尿器科に勤務していた頃に一緒に働いた後輩である白岩学先生が、本日白河市に泌尿器科のクリニックであるしらかわ腎泌尿器内科クリニックを開業した事を記事にしました。

その白岩先生が、透析診療と内科のクリニックであるしらかわ透析・内科クリニックを開院し、

4月1日より透析診療を開始したということで見学に行ってきました。

住所は福島県白河市北真舟25番地2パークシティ104ビル2階と言うことでした。
実際に行ってみて、とても大きなビルディングの2階でビックリしました。

 

 

階段を2階に上ります。(もちろんエレベーターもあるそうです)

 

 

右が内科外来で左が透析室でした。

 

 

入口から暖炉のある素敵な待合室、そして広々とした更衣室ととても素晴らしい環境でした。

そして、透析室内も広くゆったりしたスペースでした。

照明は間接照明で落ち着いた雰囲気で透析治療が受けられる印象でした。

 

 

点前にあるスペースにはチェアーベットが置いて有りましたが、チェアーベットも外国より取り寄せたものでマッサージ機能もあるそうです。

 

 

私も座らせていただきましたが、とても座り心地がよく楽に過ごせそうでした。

 

 

奥には半個室ブースで透析治療が受けられるスペースもあり、快適に過ごせそうです。

 

 

壁には来年の第10回透析運動療法研究会ポスターも貼っていただいてどうもありがとうございました。
透析送迎も対応可能とのことです。
ご興味のある方はお問い合わせください。

TEL: 0248-21-7166

実は、このクリニックですが、当院事務長が開業をお手伝いしたので、すずきクリニック、すずきクリニック個室透析センター、あさか野泌尿器透析クリニックを建築したときの知恵を引き継いでいるクリニックになっているようです。
技師長さんも郡山市内の透析治療で有名な病院の透析センターで長く中心として働いていたベテランさんですし、他施設で長く透析治療に携わっていた看護師さん達もいますので、お勧めのクリニックなんですよ。
2019.04.01
一般

入社式

本日、医療法人援腎会の新卒者入社式を行いました。

 

 

地元の学校を出た新卒臨床工学技士へ辞令を渡しています。

分院のあさか野泌尿器透析クリニックの患者さんも増えてきていますのでスタッフは増員中です。

新卒の彼を含め、今春は6名の職員を採用予定です。

より良い医療が提供出来るように、すずきクリニック、あさか野泌尿器透析クリニック共々頑張っていきたいと思います。

これからもよろしくお願いいたします。

 

 

2019.03.28
一般

第10回透析運動療法研究会ホームページを公開いたしました。

最近、ブログ更新が無く失礼いたしました。

来年2月8日9日に郡山市で開催となる第10回透析運動療法研究会ホームページを公開いたしました。

まだほとんどのページが準備中ではございますが、取り急ぎ一報としてお知らせいたします。

 

https://enjinkai.com/exercise2020/

2019.03.02
一般

日曜日に第3回群馬県血液浄化セミナー&安全対策セミナーで講演します。

日曜日に第3回群馬県血液浄化セミナー&安全対策セミナーで

「しっかり透析とオンラインHDF」と言う演題名でお話させて頂きます。

 

最近、『翔んで埼玉』と言う映画が全国で放映されています。

 

 

そこに出てくる群馬県って酷い扱いですね。

 

 

実は私は出身埼玉県ですが、群馬県に接する深谷市出身です。

しかも、高校は

 

 

群馬県高崎市にある東京農業大学第二高等学校

群馬は第二の故郷みたいなものです。

 

そう言う事で、今回故郷に錦を飾る的な思いで行ってきます。

 

お話するのは

 

オンラインHDFの臨床効果
リンについて考える
しっかり透析と診療報酬改訂
高齢透析患者の動向と透析の考え方
高血流透析の勧め
です。

 

高血流透析の話で当院の平均血流量の変化のグラフをお示しします。

 

 

2011年の11月から1年かけて平均血流量をかなり上げて350ml/min以上になっています。

ところが、現在では304ml/minまで下がっています。

この原因について次のスライドでお示ししています。

 

 

ご覧になって解るかと思いますが、高血流中心の頃は時間が短めでした。

それが、現在は通院患者さんの多くが5時間以上となっており必然的に高齢者を中心に血流は落とす方向になっています。

 

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私自身高血流透析を勧めていますが、闇雲に全員が高血流にすべきだと言ってはいません。

週3回4時間血流200ml/minの透析では多くの方が透析不足であり、時間を延ばせればそれが一番であり、それでも足りない場合や時間を延ばせない場合は血流を上げる事をお勧め呈しています。

 

画像が小さく見にくい部分は申し訳ありません。

 

 

プロフィール

援腎会すずきクリニック院長 鈴木一裕

こんにちは、援腎会すずきクリニック院長の鈴木一裕です。

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