医療費の詳細な明細書の無料発行について
厚生労働省では、全ての医療機関に対して医療費の詳細な明細書を無料発行するようにする動きがあるようです。
明細書には、行った処置や投与した薬剤の価格と共に、全ての病名が記載されます。
行われた行為とその事に対して支払う価格がはっきり明記されますので、医療の透明化を行うと言う視点からはとてもいいことだと思います。
ところが、医療者側はこの詳細な明細書の発行に対して強く反対しています。
なぜなんでしょうか。
ここで、ちょっと例を挙げます。
尿管結石で来院された患者さんが強い痛みを訴えた場合です。
即効性があり、痛みを抑える薬として、ボルタレン座薬があり、非常に有効でよく使われています。
しかし、ボルタレン座薬の適応病名は、
次の疾患並びに症状の鎮痛・消炎//関節リウマチ、変形性関節症、腰痛症、後陣痛。手術後の鎮痛・消炎。
急性上気道炎の緊急解熱。
となっています。
尿管結石は入っていません。
そこで、腰痛症と言う病名を付けるようになります。
これが「保険病名」です。
尿管結石は腰が痛くなるので、腰痛症と書いてあっても、それほど違和感がありません。
ただ、ある病気に対し、有効だと知られているけれど、適応病名にないものはたくさんあるのです。
なぜこんな事が起こるのでしょうか。
日本では、ある薬剤の適応病名を取るためには、追加する臨床試験の費用を含め、かなりのコストがかかるようなのです。
安価な薬の場合や適応が通っても少人数の方にしか使わない薬では、製薬会社がその薬の申請をしても、コストに見合う利益が得られないので、適応を取らなくなります。
しかし、痛がっている患者さんに有効であるボルタレンを使わない訳にはいきません。
そこで、実際には尿管結石とは違う病名である腰痛症という病名を使うようになるのです。
詳細な明細書に病名が全て書かれるようになると、患者さんは自分の病気と違う病名に気づくようになります。
その事を十分に説明すればいいのですが、たくさんの薬でこの様なことが有るため、これまで医師の裁量でこの薬が一番いいと判断していた薬も、これは適応が無いから使うのを止めようと言う考えが出てくるようになってしまいます。
このことは、結果的に患者さんにとても不利益になるのです。
ですから、詳細な明細書を義務化するなら、その前に有効でよく使われる薬に対しては、薬剤の適応病名をもっともっと広げて欲しいのです。
その時は、喜んで賛成するのではないかと思います。
前立腺癌の治療法による副作用の研究
限局性前立腺癌の治療法、患者の機能障害に差
Smith DP et al. Quality of life three years after diagnosis of localised prostate cancer: population based cohort study. BMJ. 2009;339:b4817
オーストラリアでのコホート研究によると、限局性前立腺癌の治療法によって患者のQOLに異なる影響がある。交絡因子を調整後、対照群に比べアンドロゲン抑制療法で性機能障害、外科療法で排尿障害、放射線療法で腸障害のオッズ比が高かった。著者らは治療は患者のQOLと年齢を勘案する必要があると結論している。
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こんな研究が医療情報のサイトに載っていました。
アンドロゲン抑制療法=ホルモン療法は、男性ホルモンが出ないようにすることで前立腺癌の進行を抑える治療法です。
男性ホルモンを抑えますので、EDなどの性機能障害が副作用として起こります。
外科治療では、前立腺を手術で摘出します。
前立腺の真ん中に尿道は有りますので、その部分の尿道は前立腺と共に摘除してしまいます。
切断された尿道はつなぎ合わせることになりますので、そこに尿道狭窄(尿道が狭くなってオシッコが出にくくなること)が生じる場合が出てきます。
さらに、前立腺の周囲には尿をもれなくする為の筋肉が有ります。
筋肉の走行は人によってかなり違いますので、どうしても筋肉が前立腺の近くに有る方では、手術の時に筋肉が損傷し、術後の尿失禁になります。
前立腺のすぐ後ろには直腸が有ります。
前立腺は、あまり動くことは無いのですが、直腸に便がたまっていたり、膀胱に尿が貯まっていたりすることで、2cmくらい動くということが最近報告されています。
そのため、放射線を前立腺に照射すると、直腸や尿道の粘膜にダメージを与え、腸障害や尿道狭窄が生じることがあり、放射線療法の合併症と言われています。
今回の発表は、今まで言われていた合併症を、きちんと調査して、しっかりまとめた論文なんでしょうね。
事業仕分け
民主党の事業仕分けが行われ、いろいろなものが仕分けされ、その中には我々の収入となる診療報酬がありました。
「診療報酬の配分を見直し、開業医の報酬を勤務医と公平になるようにする。」と言う議論です。
僕は、昨年までは勤務医でしたが、現在は開業医となっていますので、公平であるか不公平で有るかについて書く立場ではないです。
ただ、議論する前提となる官僚の資料に問題が多いという意見が多数ありますので、今回ご紹介します。
一般的に卒業してすぐに開業する医師はいなく、10数年経過してから開業するのが普通です。
ですので、開業医と勤務医をそのまま比べるのは乱暴です。
平均年齢が違います。
今回問題となっているのは、医療経済実態調査報告による収支差額であって、医師の給与ではないのです。
ここから診療所の開設・運転の為の借入金や設備投資を抜いた金額が本当の収入になります。
さらには、開業医にはボーナスも退職金もなく、病気やけがをすれば、すぐさま収入が無くなるリスクがあります。
開業医でなくとも個人事業主は同じですね。
他にもいろいろありますが、きちんとした調査をしないで、もしくは都合のいいデータしか出さないで、「開業医と勤務医で格差が有る」と言う前提で仕分けを行った可能性が有るというのです。
すごい施設があるものだ。
全国にはたくさんの透析施設が存在しています。
その中には、すばらしい治療成績を上げている施設がたくさんあります。
本日、透析ケアという雑誌の12月号が届きました。
『透析量upの方法を知る』という題名で特集記事が載っていました。
長時間透析、短時間頻回透析、隔日透析、在宅血液透析、HD併用腹膜透析、血流アップ(300以上)について書かれていました。
その中で、長時間透析について、北海道岩見沢市にある腎友会岩見沢クリニックの透析治療と治療成績が書かれていました。
腎友会岩見沢クリニックは、長時間透析を行い、なおかつ血流量を上げて高透析量の透析を行っている施設であることは知っていました。
でも、詳細については知りませんでしたが、今回の論文は度肝を抜く様な内容でした。
腎友会岩見沢クリニックで行っている透析治療は以下の様な内容です。
1回の透析時間は6時間で、しかも6-6-6時間と週3回行ったほかに、3から4時間の4回目の透析を行っている方が、126名中85名(67.5%)もいるというのです。
とてもビックリしました。
そして、週18時間以上の透析時間の患者さんが96名(76.2%)、15時間以上の患者さんも117名(92.9%)いると書かれていました。
ほとんどの方が1回5時間以上の透析を行い、2/3以上の方の透析時間が週20時間以上だというのです。
とても驚きです。
そのため、透析患者総数126名に対し、週4回透析を行うために77台のコンソールを用意しているというのです。
頭が下がります。
患者さんも良くそんなに長時間透析を受け入れてくれるのかと思うのですが、そこには秘訣があるようです。
たとえば、リンのコントロールがうまくいっていない患者さんには、「なぜリンが高いといけないのか」を十分に理解してもらい、その上で、透析時間を延ばした透析を受けてもらい、実際にデータが改善したことを確認してもらうそうです。
そうすると、今までよりたくさんの食事が出来るようになり、もう短い透析に戻れなくなると言うのです。
治療成績も書かれておりまいしたが、生存率がとてもすばらしく、10年生存率68.8%、20年生存率49.1%だそうです。
現在、生存率の全国平均は5年生存率で60%くらいでしょうか。
圧倒されてしまいます。
たぶん、僕の知っている中では、全国で一番透析をやっている施設だと思います。
上には上がいるんだなと言う感じです。
援腎会すずきクリニックも頑張りたいと再度思いました。
12月になりますが、カブト虫生きてます。
11/5の記事で、カブト虫が弱ってきたと書きました。
実際、あの頃から動きが少なくなり、前回の写真でも有るように、羽も乱れて来ていて、いつも見るたびにもうそろそろだなという感じでした。
あれから、1ヵ月近く経ちますが、まだ生きています。
弱った状態が続いていると言うのが現状です。
人に聞いた話では、カブト虫は年は越さないそうです。
クワガタは年を越して、2年くらい生きるようです。
来年は、クワガタを幼虫から育ててみたいなんて考えてしまいました。
これだけ長生きしてくれたカブト虫に対して失礼ですね。
プロフィール

こんにちは、援腎会すずきクリニック院長の鈴木一裕です。