オンラインHDFのメリット、デメリット
前回は、オンラインHDFの患者さんにとってのメリットを書きました。
それでは、我々透析を提供する側からのメリット・デメリットはどうでしょうか。
まずは、クリニックにとってのデメリットです。
1.透析液清浄化の為の設備投資がかかる。
透析液を全くの無菌状態にするためには、エンドトキシンカットフィルターを使うだけでは非常に心許ないです。
そのため、RO装置の段階から徹底的に透析液の清浄化を行っています。
2。エンドトキシンカットフィルターの使用量が多い。
さらに、オンラインHDFを行うために、透析コンソールの手前では、エンドトキシンカットフィルターを2本直列に使用しています。
3.透析液清浄化の確認の為のコストがかかる
通常では行わない頻度でエンドトキシンの測定と細菌培養を行っています。
4.通常透析では必要ない輸液ポンプが必要
透析では輸液ポンプが1台で済みますが、HDFを行うためには2台必要です。
5.診療報酬に規定されていない。
現時点ではオンラインHDF専用装置は厚生労働省から認可されていますが、オンラインHDFそのものは保険に未収載です。
オンラインHDFのメリットについて書きます。
1.患者さんが元気になる。
透析中の状態悪化も少なくなり、スタッフの手間が少なくなる。スタッフも常に状態が悪い患者さんに対応するストレスが無くなる。
2.状態がいい。
入院や死亡率が減るので、患者さんが減らない。
当院で透析を導入する人はいません。受け入れているだけです。
その方たちが減ることはなるべく避けたいことです。
3.包括化されているエリスロポエチンの使用量が少なくなる。
以前の福島腎不全研究会の発表で、当院に転院した患者さんのエリスロポエチンの使用量は転院時の半分以下になっています。
などがあります。
でも、一番のメリットは、
オンラインHDFは、常に医療者も患者も前向きに治療に取り組むことが出来る治療である事だと思います。
オンラインHDFについて
前回述べましたように、HDFは多くの点でHDに比べ利点が多く、非常に有用な治療法だと言われています。しかし、現状では、コストがかかる治療であり、長期間透析をやったために合併症がたくさん生じてきた患者さんなどの限られた方しか対象としていません。
これだけ有用だと言われている治療法をできるだけたくさんの患者さんに提供できないかと言う観点から考えられた方法がオンラインHDFです。
オンラインHDFは、通常のHDFで使用するサブラットと言う注射液を使用せず、透析に使用する液を直接補充液として使用する方法です。
そのため、通常のHDFに比べてオンラインHDFは、補充液が大量に置換できるメリットがあります。
HDFはたくさんろ過すればするほど効果が上がると考えられ、通常のHDFでは置換液はせいぜい多くても10リットルまででなのに対し、オンラインHDFでは50リットル以上の補液が可能です。
当院でも、一番多く使用した人で1回に72リットルという方がいらっしゃいます。
オンラインHDFの他のメリットとして透析中の不均衡が生じにくい事があります。
腎臓と同じろ過という方法であることから不均衡が生じにくく、血圧も下がりにくいのでしょう。
これによって血流量を上げることができますから透析量も増やす事が出来ます。
なぜボトル型HDFより安全なのか。
透析液の一部を補液に回します。
そして出口では除水された後で透析液と一緒になりますので、別な場所から入り、計算して出て行くボトル方HDFよりも安全なのです。
しかし、透析液を補充液に使用できるのは、厳重な透析液の水質管理をしている施設だけです。
通常透析液はエンドトキシンという物質で汚染されています。しかし、オンラインHDFを行うためには、細菌やエンドトキシンを測定感度以下になるまで徹底的に清浄化させなくてはなりません。
通常、エンドトキシンを防ぐエンドトキシンカットフィルターという機器を取り付けて対応しますが、根本的には透析液を作る段階からの清浄化が必要となります。
以下に最近言われているオンラインHDF利点を示します。
1.透析患者さんの予後を改善させる。長生きができる。
2.心臓への負担が少なく、血圧の低い方に有効である。
3.腎臓にもやさしいため、尿が出る期間が延長する。
4.炎症マーカーが減少して、酸化ストレスが改善する。
5.貧血が改善する。
6.栄養状態が良くなる
7.アミロイドーシスが改善する。
オンラインHDFとは、 透析者の人生の質を大きく高め、寿命も延ばすことが証明されている治療なんです。
血液ろ過透析(HDF)について1
前回はしっかり透析の効果について書きました。
今回は、血液ろ過透析(HDF)について書きたいと思います。
透析は、血液と透析液の間にある半透膜を介して、その濃度差で物質の移動がおこり、尿毒素が血液から透析液に移動して血液をきれいにする方法です。
ただ、その場合には半透膜の孔を通りやすい小さな物質しか除去できません。
透析が始まった頃は、小さな物質だけを抜くだけでも効果があったのですが、長期間透析ができるようになると、もっと大きな物質を抜かないとずっと元気でいられないことがわかってきました。その大きな物質の代表が透析アミロイド症の原因物質であるβ2マイクログロブリンです。
大きな物質を抜く方法で最も簡単なのは、孔を大きくすることですが、重要なタンパクまで抜いてしまいます。そのため考えついたのが、血液と透析液の間で水を大量に移動させることで、水と一緒に移動する性質の大きな物質を移動させて除去する方法です。これを血液ろ過と言います。
先ず拡散です。
小さな物質は濃度勾配で移動しやすいですが、大きなものはなかなか通りません。
ろ過です。
これがろ過になると、圧をかけて物質が移動するので小さなものと大きなものが同様に移動します。
しかし除去できる量は少ないです。
そしてろ過透析です。
抜けいにくい物質はろ過で、小さな物質は拡散で大量に除去出来ます。
血液がダイアライザーに入る前に点滴を多量に入れてその分の水分を引っ張る前希釈という方法と、引っ張った後に点滴を入れる後希釈という方法があります。
濾過だけでは小さな物質の除去が悪くなるので、ろ過と透析を併用した血液ろ過透析が主流です。
具体的には、透析で2kg増えてきた方の場合は、2kg分の水分を取り去らなければいけないので、ダイアライザーを通してポンプで2Kg分水を引っ張って取り去りますが、HDFを行うときは、この除水に加え点滴をたとえば8L行います。そうすると、ダイアライザーを通しては、2L+8Lの合計10L水を取り去ることになり、それに伴い、大きな物質が除去できることになります。
当院の透析診療について
それでは最後に当院の透析診療について書きます。
当院では、ベッドサイドでの透析回診の他に、月一回は患者さんと向き合ってレントゲン写真やデータをきちんと説明し、治療方針を決めています。
これは、開院当初より現在まで続けています。
最近透析中の血圧低下がないか、体重増加の程度を確認の上、透析後怠くないかなどを問診し、ドライウエイトの変更や栄養指導を行っています。
すごく落ち着いていて、特に話すことも無い方もいらっしゃいますが、それでも時々いつもの回診では分からない問題点がはっきりしてきます。
栄養指導は月1回行っています
初回は、個室でじっくり時間を取って行いますが、その後は透析中のベッドサイドで、直近の検査データも含めて、管理栄養士が説明しています。
患者さんのデータや状態は刻々と変わってきます。
数年前にやった栄養指導が、現在の状況に合っていることの方が珍しいのでは無いでしょうか。
透析液清浄化ですが、この点については、主として当院の優秀な技師たちが行っています。
透析液が清浄化されていると言うことは、透析治療の土台になることですので、絶対に守らなければならないことです。
もちろん、清浄化をきちんと確認するために、エンドトキシンおよび細菌検査を月1回欠かさず行っています。
これは、ホームページや更衣室前の掲示板に載せていますが、きちんと清浄化されていることを示すことは大切だと思います。
そして本体の血液透析ですが、当初はオンライン濾過透析をすればいいという甘い考えでしたが、間違っていたことが分かりました。
一番大切なことは、透析量を増やすことです。
そのために一番有効なことは透析時間を延ばすこと。
(本当は回数を増やすことがこの前に来ますが、一般的に出来ることとして透析時間としました。)
次に血流を上げること。
合わせて、〝しっかり透析〟です。
このことが一番大切です。
当院では、時間延長を患者さんに勧めていますが、長時間を承諾してくれる方は少ないです。
でも、日々の診療の中で常々メリットを話すことをしています。
徐々に効果は出てきて、現在2割の方が5時間透析。5割の方が4.5時間透析の透析時間になっています。
また、血流は多くの方が300ml/minであり、それ以上の方もいらっしゃいます。
血流を上げる事を苦痛にする患者さんは少ないので、どんどん上げるように心がけています。
ただし、ある一定以上の血流にする場合、穿刺針の太さを太くしなければなりません。
太くしても痛みはあまり変わらないのですが、いつも同じ場所に刺している様な方ですと、止血が悪くなったり、皮膚が弱くなったりしますので、必ず穿刺場所をずらす必要が有ります。
シャント管理も大切なことです。
現在、患者さんの人数も多くなってきましたので、週1回くらいはPTA(狭くなったシャントを風船で膨らます治療です。)を行っています。
そのためか、これまでにシャントが狭窄や閉塞することで作り直さなくてはいけなくなった方は少数です。
これについては、ホームページの学会発表 2010年12月 4日 第83回福島腎不全研究会2を参照ください。
最後に透析の回数ですが、小人数ですが本人の強い意欲の元に週4回透析を行っている方もいらっしゃいます。
援腎会すずきクリニックの目標は、当院で透析を受ける皆さんが『元気で長生き出来る様になる』ということです。
理想の透析室を目指して、明日もみんなでがんばるぞ〜!
透析の考え方
現在、血液透析は「一回4時間×週三回、血流量200 ml/分」という透析が標準となっています。
この平均的な透析が、腎機能をどれだけ補っているでしょうか。
それは尿素の様に小さく抜けやすい毒素について、本来の腎機能の10%強程度と考えられます。しかし、尿素より大きな尿毒素を除去出来る能力はもっともっと低くなります。
そして、この平均的な透析を続けた治療成績は、5年生存率が60%程度、10年生存率が40%程度です。
患者さんの平均年齢が65歳とすれば、患者さんの4割の方は70歳にならずに亡くなられるという状況ですので十分な治療成績とはいえません。
5年生存率60%では、癌の治療成績に負けてしまいます。
さらに、長期予後が期待出来る若い方が、「二十年、三十年透析で元気に生きる」と言う事を考えれば、長期間貧弱な透析を続けた後で、「最初からもっと抜いておけばよかった。」と患者さんが思っても、体に蓄積した尿毒素はもう抜けませんし、傷んだ体は元に戻りません。
実際のデータをお見せします。
4時間透析に比べ、3時間透析はリスクが1.8倍、5時間透析で0.6倍です。
これは、1年間のリスクですので長期になれば相当なものです。
実際に、日本の平均と週3回6時間透析を行っている施設の差を示します。
日本の平均5年生存率と週3回6時間透析の10年生存率が変わらないのが分かるかと思います。
血流量も欧米に比べると日本では低くもっと上げてもいいのではと考えています。
米国では透析患者さんの予後が悪いと言うご意見も有りますが、それは3時間透析が主流だったり、ダイアライザーの使い回しをしていたり、透析をスキップする事が有ったりするからだと言われています。
もちろん、血流量や透析時間を掛け合わせた標準化透析量は少なくなればなるほど予後が良くなっています。
この様な考え方から、援腎会すずきクリニックでは、透析導入初期の段階よりしっかり透析を行って行くことが大切と考えて実践しています。
尿素より大きな毒素を抜く目的で、オンラインHDFやⅤ型ダイアライザーを用いて血流を300ml/min以上に上げ、時間を4.5〜5時間以上に延長しています。
さらには、週4回の頻回透析も希望する方に行っています。
実際に、このブログでもしっかり透析についての学会発表した内容をこれまで載せてきましたが、歴然とした治療成績の差が有ることが分かると思います。
ホームページの学会発表にも当院の治療成績が載ってますので、ご興味がある方はご覧になって下さい。
https://enjinkai.com/society/index.html
プロフィール
こんにちは、援腎会すずきクリニック院長の鈴木一裕です。