透析クリニックが被災して 20
透析困難な施設から透析可能な施設へ患者を移動させる話です。
県中地区は、透析可能な施設と困難な施設が混在していました。
当院も最初は透析を継続困難と思っていましたが、可能だという事が判り患者さんの受け入れを行いました。
今回は、透析困難な施設は、自力で受け入れ先を探しました。
当院には2施設から問い合わせがあり、受け入れを行いました。
ただ、一時的に40−50km離れた会津地方の透析施設に送迎を行い自院の患者さんの透析治療を継続させた施設もありました。
バスをチャーターして、ガソリンを何とか集め、自院の患者さんが透析が出来るために頑張った○○先生、尊敬しています。
震災後の当院の透析患者受け入れ状況です。
当院の透析患者数60名で、一時的にはその倍の120名を受け入れて夜間透析までやっていました。
木曜日から少し人数が減ったので、夜間透析を終了させ2クールで行う事が出来る様になり、ちょっと楽になりました。
火曜日、水曜日頃はいわき地区が原発事故後の混乱と水道が復旧出来ず透析困難となったため、県中地区の透析施設に電話が殺到しました。
しかし、この様な状況のため、自施設の透析だけで精一杯だったため、いわき地区からの電話は全てお断りさせていただきました。
申し訳ありませんでした。
この頃、会津の透析施設では、いわきからの患者さん達を受け入れる為に、自施設の患者さん達を週2回として受け入れ体制を作ったと後日聞きました。
そのような対応は全く考えられませんでしたのでビックリしました。
いずれにせよ、どの施設が透析可能でどの施設が困難であるか確認し、患者の振り分けを行う県単位規模のコーディネーターは不可欠であると認識しました。
余談ですが、仙台では全ての患者を受け入れると宣言した仙台社会保険病院が2.5時間1日7クールの透析を行いました。
多くの施設が透析困難な場合は、透析可能であり比較的余裕のある施設に医療材料、薬剤、人員を集中させ透析困難な患者を集め集中的に透析を行う事が大切であるという事も実感しました。
透析クリニックが被災して 19
皆さんもご存知かと思いますが、震災直後からガソリン不足が深刻化してガソリンスタンドの前はガソリンを求める人達で大渋滞となりました。
当院では、自施設以外の患者さんも引き受けて透析を行っていました。
原発が爆発した頃も周囲が電灯を消している中で夜中まで透析をしていました。
僕自身もクリニックに張り付いていましたが、スタッフも長時間かけてガソリンスタンドの列に並ぶ事は不可能でした。
そのため、通院できないスタッフがクリニックに泊まるようになりました。
この状況を行政に何度も電話で訴え続けましたが、全く行政は対応してくれませんでした。
当院は事務長もいませんから、院長が対外的な事も含めてやらなければなりません。
しかも、患者さんが透析をしている間に抜け出すことも出来ないのでお願いしに行くことも出来ません。
その後、各医療機関に一枚、ガソリンを入れられる緊急車両指定の通知が送られてきました。
当院でも、ガソリンが全くなく、泊まり込んでいたタッフの車を緊急車両に指定してガソリンを入れさせたことを覚えています。
その頃は、原発事故のために周囲の診療所の多くが休診していました。
なんで一律なんでしょうか。
少なくとも、週明けには電話もファックスも通じていましたので、診療を行っているかどうか返事を書かせるファックスくらい送っても良かったのではと思います。
そのような有事の際には、インフラに直結する医療機関を優先させるとか出来ないのでしょうか。
まずは病院。透析施設、往診や在宅を行っている医療機関、介護施設などです。
金曜日の夕方に、行政からガソリンはないので提供出来ないと最終的な電話がかかってきました。
ガッカリしたのですが、次の日の朝、いくつかのガソリンスタンドの前に長い行列が出来ており、実際には販売出来るガソリンが有ることも判り、非常に落胆したのを覚えています。
余談ですが、タクシーはガスで動くのでガソリン不足となっても関係有りません。
震災後有用な交通手段と言えます。
先日、とあるクリニックの先生とお話しましたが、スタッフにタクシー券を渡して通勤してもらっていたと聞きました。
なるほどととても勉強になりました。
それから、患者搬送についてもいろいろなばかげた決まりがあるようです。
原発事故後、三春の避難所から3名の透析者の方が3台の救急車に乗せられて透析を受けるために連れてこられました。
皆さん疲れてはいましたが自分で歩ける方ばかりです。
なんで救急車で来たかというと、患者は救急車で搬送する決まりになっているからです。
そんなばかげたことが震災直後の混乱期にはたくさんありました。
お役所と言うのは決められた事しかできません。
ですので、有事の経験を生かして事前に何か起こったときの対応を決める、もしくは有事の際に行政に医療者の代表が入り強いリーダーシップを取ることが重要となると思います。
福島県常勤医師の増減状況
9月10日(土)の福島民友新聞に、福島県における常勤医師の増減状況が掲載されていました。
県の調査では、8月1日現在で45人の常勤医師が県外に流失しているそうです。
原発事故の被害が大きい相双地区では、58人の常勤医師が減少しています。
相双に次いで郡山市では16人の医師が減少していました。
相双地区から移ってきている先生方もいるにもかかわらず、16人の減少です。
福島に比べて明らかに減少しているのは、なぜでしょうか。
福島の医療環境は、たくさんの医療関係者の努力でなんとか現状維持していますが、今後は福島に来てくれる医師が減っていく恐れがあります。
来年度の臨床研修医が大きく定員割れする恐れがあります。
さらには、現在若い先生方でも妻子を県外に行かせ、単身で頑張っている先生もいますが、その先生方がいつまで頑張る事が出来るかわかりません。
でも、福島に来てくれる医師が減っていく状況で、出て行く事を責めるのはおかしな事です。
今後、福島県では、医師不足の状態が徐々に悪化していく可能性が有ります。
ここに東大の上昌広特任教授のグループが発表した福島の震災の影響シミュレーションが有ります。
震災が無い状態でも、現状では医療状況は決して良くありません。
25年後も変わらないです。
ここで、震災の影響を考慮したシミュレーションでは、医師数も労働時間も更に悪化してしまいます。
行政も医師会もメディアもその事に対して危機感が無いようです。
とても心配です。
透析クリニックが被災して 18
医療材料について、とある問屋さんから当時の状況をメールで教えていただきました。
ご本人の許可を頂いていますので、ここに紹介いたします。
会社にも寄りますが、週末に掛けて在庫が減り、週末に在庫発注した物が週明けに入荷というサイクルが一般的です。
まさに3/11は金曜日で在庫があまり無い状態でした。
運送会社のシステムダウン・ターミナルでの荷物の散乱などで、週末発注分がほとんど入荷しませんでした。
商品によっては在庫も尽きてしまいました。
交通の遮断と追い討ちを掛けるように原発の水素爆発。東北方面(岩手・宮城・福島)の運送会社がストップしてしまい、各メーカー毎の対応に委ねられました。
透析消耗品同様、一般治療材料(注射針・シリンジ・輸液セット)や吸引カテーテル・衛生材料(ガーゼ等)は毎日必要です。
主要メーカーに連絡を取り、メーカー単独でトラックをチャーターし各県のディーラーへ配送してもらえる事になりました。
他のメーカーも他社の動向をみて、チャーターを出してきました。それでも10tトラックが初めて来たのは震災から丁度一週間後の17日(木)でした。
医療材料メーカーのほとんどが東京・大阪に本社を置き、支店・営業所は仙台に置いていますが、配送センターは栃木や茨城が多いです。
メーカーによってはリスク分散と配送効率の観点から仙台を中心に東北に配置しています。
今回、○○社の仙台倉庫が被災し、物流がストップしてしまいましたが、トラックチャーターや営業が配送を行い一部規格変更は有りましたが、在庫を切らす事がありませんでした。
衛生材料は名古屋・大阪・三重から日本海ルートで青森から福島まで下りて来るコースでした。
ドライバーには「またお願いします」と声を掛けましたが、苦笑いしてました。
震災や高速などの交通機関の状況が明らかになるにつれ、また、ガソリン不足もあり、宅配は出来ませんが運送会社のターミナルでの持ち込み発送とターミナル止めで引取が可能になりました。
当社の営業車・配送車を緊急車両登録が出来たため、ガソリンは何とかなりました。
記憶では連休明けの22日か23日に浜通り以外の運送便が再開し、昨日までの状況が一変し、物流再開でここまで変わるのか。 と思い知らされました。
今回は首都圏のダメージが少なかった為、約2週間弱で物流が再開しましたが、もし首都圏が被災した場合を考えますと、おそらくもっと時間がかかり復旧の見通しが付かないと思うととても恐ろしくなります。
今回スピーディーだったメーカーは阪神淡路大震災の経験を教訓として行動してくれました。これを期にメーカー本社が被災した場合等ののストレステストを是非行って頂きたいと思います。
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今回は医療材料の問屋さんの話ですが、薬品関連の問屋さんもとても頑張っていただき、とてもありがたかったです。
どうもありがとうございました。
スタッフ一同感謝いたします。
透析クリニックが被災して 17
当院のライフライン復旧経過です。
電気は、翌日200V電圧変電器を応急処理することで使用可能となりました。
水道は、翌日一時低水圧でしかも濁った水が流れてきましたが、その後改善しました。
かなり濁った水で、RO装置のプレフィルターが真っ黒となりました。
ガスは時間はかかりましたが、4日後には全て復旧しました。
ガスが復旧するまでの間、患者さんには寒い思いをさせてしまいました。
院内設備について教訓です。
鉄骨の建物は、地震時に揺れてしなることで地震の揺れを防ぐと言われています。
ですので、上に行けば行くほど揺れます。
鉄骨で揺れが強い施設では、貯水槽、変電器などの重要な構造物は出来るだけ地上に置くべきです。
そして、地震対策として透析室は1階に置く方がいいです。
ただ、東北腎不全研究会での発表で聞いた話ですが、
有る施設は1階は津波の被害に遭い、CTを含め医療機械の全てがやられてしまったそうです。
ただ、2階の透析室は津波の被害が無く次の日から透析可能だったそうです。
この話ですごいと思ったのは、この施設では非常用電源を屋上に置いたと言う事です。
周囲が津波の被害でひどい状態ですので、勿論電気も通っていません。
今回、通常は地上に置く非常用電源を屋上に設置したので、燃料を屋上まで持って行く労力は有ったが、電源を確保して透析を継続出来たという話でした。
設計士が通常は地上に置くと説明したが、院長先生がこの辺りは以前より津波にやられているので、屋上以外は譲れないと言う意見だったそうです。
結論としては、
その地域の特性や建物の構造を考えて透析室は設計すべきだと言う事です。
勉強になりましたが、当院はすでに作ってしまっているので参考に出来ませんが、このブログを見た方は参考にして下さい。
プロフィール
こんにちは、援腎会すずきクリニック院長の鈴木一裕です。