2011.02.04
診療
研究

血液ろ過透析(HDF)について1

前回はしっかり透析の効果について書きました。

今回は、血液ろ過透析(HDF)について書きたいと思います。

透析は、血液と透析液の間にある半透膜を介して、その濃度差で物質の移動がおこり、尿毒素が血液から透析液に移動して血液をきれいにする方法です。
ただ、その場合には半透膜の孔を通りやすい小さな物質しか除去できません。

透析が始まった頃は、小さな物質だけを抜くだけでも効果があったのですが、長期間透析ができるようになると、もっと大きな物質を抜かないとずっと元気でいられないことがわかってきました。その大きな物質の代表が透析アミロイド症の原因物質であるβ2マイクログロブリンです。

 大きな物質を抜く方法で最も簡単なのは、孔を大きくすることですが、重要なタンパクまで抜いてしまいます。そのため考えついたのが、血液と透析液の間で水を大量に移動させることで、水と一緒に移動する性質の大きな物質を移動させて除去する方法です。これを血液ろ過と言います。

先ず拡散です。

小さな物質は濃度勾配で移動しやすいですが、大きなものはなかなか通りません。

ろ過です。

これがろ過になると、圧をかけて物質が移動するので小さなものと大きなものが同様に移動します。
しかし除去できる量は少ないです。

そしてろ過透析です。

抜けいにくい物質はろ過で、小さな物質は拡散で大量に除去出来ます。

血液がダイアライザーに入る前に点滴を多量に入れてその分の水分を引っ張る前希釈という方法と、引っ張った後に点滴を入れる後希釈という方法があります。
濾過だけでは小さな物質の除去が悪くなるので、ろ過と透析を併用した血液ろ過透析が主流です。

具体的には、透析で2kg増えてきた方の場合は、2kg分の水分を取り去らなければいけないので、ダイアライザーを通してポンプで2Kg分水を引っ張って取り去りますが、HDFを行うときは、この除水に加え点滴をたとえば8L行います。そうすると、ダイアライザーを通しては、2L+8Lの合計10L水を取り去ることになり、それに伴い、大きな物質が除去できることになります。

2011.02.04
診療
開業 / 病院経営
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当院の透析診療について

それでは最後に当院の透析診療について書きます。

当院では、ベッドサイドでの透析回診の他に、月一回は患者さんと向き合ってレントゲン写真やデータをきちんと説明し、治療方針を決めています。

これは、開院当初より現在まで続けています。
最近透析中の血圧低下がないか、体重増加の程度を確認の上、透析後怠くないかなどを問診し、ドライウエイトの変更や栄養指導を行っています。
すごく落ち着いていて、特に話すことも無い方もいらっしゃいますが、それでも時々いつもの回診では分からない問題点がはっきりしてきます。

栄養指導は月1回行っています
初回は、個室でじっくり時間を取って行いますが、その後は透析中のベッドサイドで、直近の検査データも含めて、管理栄養士が説明しています。
患者さんのデータや状態は刻々と変わってきます。
数年前にやった栄養指導が、現在の状況に合っていることの方が珍しいのでは無いでしょうか。

透析液清浄化ですが、この点については、主として当院の優秀な技師たちが行っています。
透析液が清浄化されていると言うことは、透析治療の土台になることですので、絶対に守らなければならないことです。

もちろん、清浄化をきちんと確認するために、エンドトキシンおよび細菌検査を月1回欠かさず行っています。
これは、ホームページや更衣室前の掲示板に載せていますが、きちんと清浄化されていることを示すことは大切だと思います。

そして本体の血液透析ですが、当初はオンライン濾過透析をすればいいという甘い考えでしたが、間違っていたことが分かりました。

一番大切なことは、透析量を増やすことです。
そのために一番有効なことは透析時間を延ばすこと。
(本当は回数を増やすことがこの前に来ますが、一般的に出来ることとして透析時間としました。)
次に血流を上げること。
合わせて、〝しっかり透析〟です。
このことが一番大切です。

当院では、時間延長を患者さんに勧めていますが、長時間を承諾してくれる方は少ないです。
でも、日々の診療の中で常々メリットを話すことをしています。
徐々に効果は出てきて、現在2割の方が5時間透析。5割の方が4.5時間透析の透析時間になっています。

また、血流は多くの方が300ml/minであり、それ以上の方もいらっしゃいます。
血流を上げる事を苦痛にする患者さんは少ないので、どんどん上げるように心がけています。
ただし、ある一定以上の血流にする場合、穿刺針の太さを太くしなければなりません。
太くしても痛みはあまり変わらないのですが、いつも同じ場所に刺している様な方ですと、止血が悪くなったり、皮膚が弱くなったりしますので、必ず穿刺場所をずらす必要が有ります。

シャント管理も大切なことです。
現在、患者さんの人数も多くなってきましたので、週1回くらいはPTA(狭くなったシャントを風船で膨らます治療です。)を行っています。
そのためか、これまでにシャントが狭窄や閉塞することで作り直さなくてはいけなくなった方は少数です。
これについては、ホームページの学会発表 2010年12月 4日  第83回福島腎不全研究会2を参照ください。

最後に透析の回数ですが、小人数ですが本人の強い意欲の元に週4回透析を行っている方もいらっしゃいます。

援腎会すずきクリニックの目標は、当院で透析を受ける皆さんが『元気で長生き出来る様になる』ということです。

理想の透析室を目指して、明日もみんなでがんばるぞ〜!

2011.02.04
診療
研究

透析の考え方

現在、血液透析は「一回4時間×週三回、血流量200 ml/分」という透析が標準となっています。
この平均的な透析が、腎機能をどれだけ補っているでしょうか。

それは尿素の様に小さく抜けやすい毒素について、本来の腎機能の10%強程度と考えられます。しかし、尿素より大きな尿毒素を除去出来る能力はもっともっと低くなります。

そして、この平均的な透析を続けた治療成績は、5年生存率が60%程度、10年生存率が40%程度です。

患者さんの平均年齢が65歳とすれば、患者さんの4割の方は70歳にならずに亡くなられるという状況ですので十分な治療成績とはいえません。
5年生存率60%では、癌の治療成績に負けてしまいます。

さらに、長期予後が期待出来る若い方が、「二十年、三十年透析で元気に生きる」と言う事を考えれば、長期間貧弱な透析を続けた後で、「最初からもっと抜いておけばよかった。」と患者さんが思っても、体に蓄積した尿毒素はもう抜けませんし、傷んだ体は元に戻りません。
実際のデータをお見せします。

4時間透析に比べ、3時間透析はリスクが1.8倍、5時間透析で0.6倍です。
これは、1年間のリスクですので長期になれば相当なものです。

実際に、日本の平均と週3回6時間透析を行っている施設の差を示します。

日本の平均5年生存率と週3回6時間透析の10年生存率が変わらないのが分かるかと思います。

血流量も欧米に比べると日本では低くもっと上げてもいいのではと考えています。

米国では透析患者さんの予後が悪いと言うご意見も有りますが、それは3時間透析が主流だったり、ダイアライザーの使い回しをしていたり、透析をスキップする事が有ったりするからだと言われています。

もちろん、血流量や透析時間を掛け合わせた標準化透析量は少なくなればなるほど予後が良くなっています。

この様な考え方から、援腎会すずきクリニックでは、透析導入初期の段階よりしっかり透析を行って行くことが大切と考えて実践しています。

尿素より大きな毒素を抜く目的で、オンラインHDFやⅤ型ダイアライザーを用いて血流を300ml/min以上に上げ、時間を4.5〜5時間以上に延長しています。
さらには、週4回の頻回透析も希望する方に行っています。

実際に、このブログでもしっかり透析についての学会発表した内容をこれまで載せてきましたが、歴然とした治療成績の差が有ることが分かると思います。

ホームページの学会発表にも当院の治療成績が載ってますので、ご興味がある方はご覧になって下さい。

https://enjinkai.com/society/index.html

 

2011.02.04
診療
開業 / 病院経営

ピックアップブログに載りました。

最近、ブログの更新をさぼっていて、ちょっとネタ切れ気味なのですが、たまたまDoctorブログβを見たところ、このブログがピックアップブログに載っていました。

それならば、多くの方が見てくれる可能性が高いので、クリニックの透析に対する考えかたにつてい書いてみたいと思います。

以前も書きましたが、2年も経過していますので編集して再度掲載します。

なお、ピックアップブログにつきましては、ブログの先頭の部分にDoctorブログβと書かれたボタンが有ります。
ここを押していただけるとピックアップブログやブログの順位を見ることが出来ます。

現時点での月間ブログアクセスランキングは21位で、過去1ヶ月のアクセス数は62615回となっています。

2011.01.25
診療
研究

PDファースト

前回CAPDについて書きました。
今回は、ちょっと違った面について書いてみます。

腹膜透析(PD)は日本では透析患者さんの3.4%の方が行っている治療法です。
血液透析に比べ行っている方の人数はかなり少ないです。
全国的にはかなりの地域差があり、3年前の調査ですが、最も少ないのが佐賀県で0.6%、最も多いのが香川県で9.9%とかなりのばらつきがあります。
我が福島県は、4.9%で平均より高く、全国での普及率の順位は第9位で多い方です。

世界的に見ても日本での普及率は少ない方です。

オランダ  23.0% 
デンマーク 24.0%
英国    19.3%
米国    7.4%
韓国    21.3%
台湾    7.6%

実は、最も多いのが香港で、透析患者さんの81.3%が腹膜透析を受けています。
香港では国策でPDファーストが行われています。
腹膜透析が禁忌の患者さん以外で血液透析を希望する人には医療費還付を行わない方針です。

香港では、腹膜透析液の価格が安く、PDを選択することで透析治療費を安くしているということです。
日本では腹膜透析液が高額なため、血液透析よりPDの方が費用がかかっています。

でも、現在の日本では患者さんや診察している医師が、個々の患者さんに適した治療法を選択出来ています。
とても恵まれている状況だと思います。
我々医療者も患者さん達も、現在の恵まれた状況を続ける事が出来るように、真剣に向き合っていく必要が有りますね。

プロフィール

援腎会すずきクリニック院長 鈴木一裕

こんにちは、援腎会すずきクリニック院長の鈴木一裕です。

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