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- 2025.08.03
- 一般
ボクシングの水抜きによる急性硬膜下血腫
たまには、ボクシングの話です
私は日本ボクシングコミッション(JBC)のコミッションドクターをしています
昨年は穴口一輝選手が、試合後に右硬膜下血腫で緊急手術を受け、その後亡くなられています
最近では、前世界チャンピョンの重岡銀次朗選手が試合後に急性硬膜下血腫を発症し、開頭手術を受けています。
昨日も同様な事故があったようで、近年頻発している状況です。
原因として、近年は選手のパンチ力が昔よりも強くなっていることもありますが、過度な水抜き(急激な減量)も大きな要因ではないかと考えています。
正常な状態の脳は脳脊髄液に浮かび、この脳脊髄液が衝撃吸収材として脳を保護する役割を果たしています。脳と頭蓋骨の間には適切な脳脊髄液のスペースが存在し、また脳表面を走行する「架橋静脈」は、通常たるんだ余裕のある状態で硬膜と脳を橋渡しするように存在しています。
しかし、試合前の減量によって重度の脱水状態に陥ると、脳実質が萎縮し、脳脊髄液の量も減少します。その結果、硬膜とクモ膜の間に存在する「サブデュラルスペース(硬膜下腔)」が拡大し、架橋静脈は本来のたるみを失ってピンと張った緊張状態になります。
このような状態で頭部に衝撃を受けると、脳が硬膜側に動く「ブレインシフト」が生じ、張り詰めた架橋静脈に強い牽引力が加わり、比較的軽微な衝撃でも静脈が断裂しやすくなるのです。
破裂した架橋静脈から出血が起こると、硬膜下腔に血液が貯留し、急速な脳圧亢進や脳圧迫を引き起こして意識障害や生命の危険を伴う急性硬膜下血腫が発症します。
また、水抜きと硬膜下血腫がどのように関係するのかについてですが、脳には「血液脳関門(BBB)」が存在し、脳実質への水分移動は厳密に制御されています。計量後に大量の水分を摂取しても、まず血管や全身の脱水は是正されますが、脳実質内の水分回復には時間がかかるため、脳は依然として脱水状態のまま試合に臨むことになります。
このように、脱水状態は脳の浮力低下と架橋静脈の緊張をもたらし、急性硬膜下血腫のリスクを著しく高めます。したがって、脱水状態で頭部に衝撃を受けることは、通常よりも深刻な結果を招く可能性があるため、細心の注意が必要なのです。
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プロフィール

こんにちは、援腎会すずきクリニック院長の鈴木一裕です。